落葉松

作者名  北原白秋 (1885-1942)
作品名  落葉松
制作年代  1921
収載書名  『水墨集』
刊行年代  1923
 その他  

   一
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

   二
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。

   三
からまつの林の奧も
わが通る道はありけり。
霧雨のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。

   四
からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。

   五
からまつの林を過ぎて、
ゆゑ知らず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり、
からまつとささやきにけり。

   六
からまつの林を出でて、
淺間嶺にけぶり立つ見つ。
淺間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。

   七
からまつの林の雨は
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡るるのみなる。

   八
世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。
 


 詠いこまれた植物   カラマツ

跡見群芳譜 Top ↑Page Top
Copyright (C) 2006- SHIMADA Hidemasa.  All Rights reserved.
跡見群芳譜サイト TOPページへ カワニナデシコ メナモミ 文藝譜index 日本明治以降index